| お盆のしおり うけてくれて (全文) |
七月盆と八月盆がある訳 皆さんこんにちは。只今は皆様方のご先祖様方に感謝報恩の念を手向けるお盆法要をさせて頂きました。 さあ、これからはお盆についてお話をさせて頂きます。 お盆と言えば、ご先祖やお亡くなりになられた方々のお墓参りをする時。と一般的に受け止められていますが、では何故七月の新盆と八月の旧盆があるのかお分かりですか？ 実は私もよく分かっていなかったので、調べてみました。 お盆の時期が異なるのは、明治時代に行われた改暦によるものです。改暦とは、暦を改めると書きます。 江戸時代、天文学の知識が高まってくると、今までの暦と日蝕や月蝕などの天の動きが合わないことが問題となり、江戸幕府のもとで暦を改めようと言うことになりました。そして何度かの改暦が行われ、明治政府になると、欧米との統一をはかるため、明治五年十一月に太陽暦への改暦を発表したのです。 翌明治六年から現在の太陽暦が採用されました。ところが、これによって日本の様々な行事は三十日遅れとなり、お盆ももともと旧暦の七月十五日に行われていたのが、改暦後には新暦の八月十五日に行われるようになったと言うことです。 七月の新盆は東京を中心とした一部の地域で、旧盆はその他の多くの地域で八月に行われています。それには、農業が盛んな地方の七月は農繫期のため一ケ月遅れて行ったとか、改暦による受け入れ準備が間に合わなかったとか、いろいろと理由があったようです。このような経緯から、七月盆の地域と八月盆の地域があると言うことです。 お盆の由来 さて、ここで皆さん。ステージの方にご注目下さい。コーラスグループのマヒナスターズをもじって命名されたヒマナスターズの皆さんによる演劇の開幕です。 ―下手からお面を付けた男性登場― 〈ナレーション〉 ここはお釈迦さまがいらっしゃった頃のインドのとある場所です。 目 連 私は、お釈迦さまの弟子の一人で、神通力第一と言われている目連です。神通力と言うのは超能力 のような力のことです。最近、亡くなった母のことが気になってしょうがありません。そこで、神 通力で母がどうなっているか、探してみようと思います。 ―と言って上手の方に歩いて行き振り返るー 目 連 あっ、居ました！。母です 〈ナレーション〉 なんと、目連さまのお母さんは餓鬼界で苦しんでいました。 ―お面を付けた小太りの女性、下手でしゃがみ込んでいるー 〈ナレーション〉 お腹だけ太鼓のように膨らみ、手足は骨と皮ばかり。あっ、いささかキャスティングミスがあったようですが…。えっ？母役が栄養失調で急きょ入院？代役さんですか。 目 連 ああ、お母さん。こんなにやせ細ってしまって！何てことだ！ 〈ナレーション〉 目連さまは母に食べ物を差し出しました。 目 連 お母さん、乳粥です。これでも喉を通りませんか？ 〈ナレーション〉 差し出されたお粥を食べようとすると、お粥は火となって、お母さんを苦しめます。その苦しみから救おうと、今度は水を与えようとしましたが、火に油を注ぐようなもので、かえって火の勢いを強めてしまいました。 目 連 何てことだ。何てことだ。どうすればいい？そうだ。お釈迦さまに相談しよう ―ステージは暗転。二人下がる。上手にお面を付けたお釈迦さま。下手に目連が膝まづいているー お釈迦さま 目連よ。お前の母は、困っている人々に施しをしてきたが、最後の施しはお前のためにしよう とし、どんなに乞われても拒み続けた。この時の物惜しみした業により、餓鬼道に墜ちてしまったのだ。 母を救うには布施しかない。よいか、お坊さんたちの修業期間である雨安居が終わる七月十五日に、 お坊さんたちに様々なご馳走を布施しなさい 目 連 分かりました。母がそれで救われるなら私は施しを惜しみません 〈ナレーション〉 こうして亡き母のために、七月十五日に様々な食物をお供えし供養すると言う、お盆の原点が生まれたのです。 本来のお盆と日本のお盆 いかがだったでしょうか。ヒマナスターズの方々のステージでした。 お盆と言う呼び方は、盂蘭盆を略した言い方で、当時のインドの言葉のウランバーナを漢字に当てたものです。施し供養した七月十五日の集まりを盂蘭盆会(え)と言います。「会」と書いて「え」と読みます。人々が集うと言う意味です。 この、亡き人の供養のために、僧侶に食物などを施すと言う盂蘭盆会の考えと、日本古来の祖先崇拝の信仰がうまい具合に融合したのが現在全国に見られるお盆行事なのです。 日本では約千四百年前にお盆行事が行われるようになりました。独特なお盆行事と言えます。 因みに、日本のいろんな宗派の中で、浄土真宗では、十三日はみ魂を迎える日とか、十六日は送る日とか言う観念は、本来の仏教にはありませんと門徒さん方に説いています。ですから他の宗派のお寺で行われているようなお盆行事はありません。 手向け事は自らの成仏のため それでは大半の宗派では何故お盆に供養の法要を営むのでしょうか。 生きている私たちは、多かれ少なかれ欲望を満たそうと、もがいたりもします。そんな中で、他人を蹴落としたり、貪ってばかりいたり、恨みをかうようなことをしたりと、地獄・餓鬼・畜生・修羅の心の迷いを堂々巡りしている人も少なくはありません。 そんな人たちは安らぐことを知りません。亡き人たちの中にも同じような生き方をした人がいた筈です。そこで、亡き人たちへの手向け事を通して、自分自身の成仏のために、布施行を行うのが仏教徒としてのお盆行事との向き合い方なのです。成仏とは、欲望に振り回されずに、穏やかに心を調えることを意味し、お釈迦さまの心持ちに近づくことです。 布施行とは、見返りを求めないおかげさまの行為です。金品の施しだけではなく、例えば、困っている人に座席を譲った場合、譲られた側が有り難うではなく、譲った側が「座って頂いて有り難う」なのです。 今年のお盆、こんな目線で向き合ってみませんか。きっと亡き人たちも喜んでくれることでしょう。 文・絵・髙澤 公省 |